東京地方裁判所 昭和25年(ワ)6016号・昭25年(ワ)1661号 判決
2 原告(反訴被告)等は、被告(反訴原告)に対し別紙目録<省略>中各原告名下の株式につき夫々名義書換手続をせよ。
3 原告塚本伊三郎(反訴被告)は被告(反訴原告)に対し別紙目録中(四)及び(五)の株券を引渡せ。
4 原告塚本伊三郎(反訴被告)は金五千円を、原告塚本政子(反訴被告)は金六百七十五円を、原告塚本華子(反訴被告)は金四百円を夫々被告(反訴原告)に支払え。
5 本訴及び反訴の訴訟費用は、これを十分し、その九を原告塚本伊三郎の、その余を原告塚本政子及び同塚本華子の負担とする。
6 この判決は、被告において、原告塚本伊三郎に対し、株券引渡の部分について金千円及び金員支払の部分につき金千五百円の、原告塚本政子に対し、金二百円の、原告塚本華子に対し金百円の担保を供するときは、第三、四項に限り、仮りに執行することができる。
二、事 実
原告(反訴被告)等訴訟代理人は、本訴につき「被告は、各原告に対し夫々別紙目録中その各原告名下の株券(但し(四)(五)は備考欄記載の申込証拠金領収証)を引き渡せ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決並びに保証を条件とする仮執行の宣言を求め、反訴につき「反訴原告の請求を棄却する。」との判決を求め、本訴請求の原因として、「
原告等は夫々別紙目録記載の各原告名下の株券((四)(五)を除く)によつて表彰せられる株式の株主であり、且つ原告塚本伊三郎は同目録(四)(五)備考欄記載の申込証拠金領収証に対応する株式の株主であるところ、被告は原告等に対抗し得べき何等の権限なく右株券及び申込証拠金領収証を占有しているから、原告等は、被告に対し株主権にもとずいて夫々右株券及び申込証拠金領収証の引渡を求める。」と陳述し、
被告(反訴原告)の抗弁及び反訴請求原因に対し、「
被告の主張事実中、原告等が、昭和二十四年十二月中旬訴外大家万寿男及び山口正一に本件株式の処分を委任し、その株券等に被告主張の通りの白紙委任状を添附し又は白地裏書して同人等に交付したこと、被告会社の営業及び身分が被告主張の通りであること及び原告等が夫々被告主張の通りの配当金を受領したことを認める。被告会社が右株式をいわゆる事故株として買戻したことは知らない。その余の事実は全部否認する。(一)被告会社は右大家等から本件株式の売付の委託をうけたものでなく、同人等から直接店頭でこれを買受けたものである。証券取引所は証券取引法に基き、その業務規程において、上場有価証券の立会場外における売買を禁止しているのであるが、右株式はすべて右にいわゆる上場有価証券であるから、これらの株式を目的として被告会社と大家等との間になされた右売買は右禁止の定に違反して無効である。(二)仮りに右事実が認められないとするも、元来原告等が昭和二十四年十二月十日から同月十五日までの間に、大家等に本件株券等を交付するに至つたわけは、原告等はその頃別に同人等に株式の売買取引を依頼しており、その際同人等に対し、その取引における売買証拠金の代りに本件株式を証券業者に担保に供することの権限を与えたことによるのであるが、原告等は同月十六日同人等に対し右委任を全部解除したから、大家等は爾後右株式につき何等の権限を有しないこととなつた。証券業者たる者は、多額の証券の買付委託をうけるにあたつては、これを持参した者の人柄をよく視察し、その者の平素の信用状態を考慮し、果してその者が右証券の処分権を有するか否かを確かめなければならないのに、被告会社は大家等から本件株券を受取るにあたり、その注意を怠り怪しい風態をした同人等のいうままにその売付方を引受けたものであるから、同人等が右株式の処分権を有しないことを知らないにつき重大な過失があり、右株式を善意取得することはできない。」と答弁した。<立証省略>
被告(反訴原告)訴訟代理人は、本訴につき主文第一項同旨の、反訴につき主文第二乃至第四項と同趣旨及び「反訴費用は反訴被告等の負担とする。」との判決を求め、本訴に対する答弁及び反訴請求原因として、「
原告主張事実中原告主張の株券及び申込証拠金領収証に記載された株主の名義又は名宛人が夫々原告主張の通りであり、原告等が、もとそれらに対応する株式の株主であつたこと及び被告が現に右株券等を占有していることは認める。然し原告等は次のようなわけで被告に対しその引渡を求める権利がない。即ち、
(一) 原告等は昭和二十四年十二月中旬訴外大家万寿男及び山口正一に対し右株式の処分を委任し、同人等に対し、内別紙目録中(一〇)の株券については白地裏書により、その余の株券及び申込証拠金領収証については、各名義人又は名宛人の白紙委任状を添附してこれを任意交付した。他方被告は有価証券の売買及びその取次を業とする会社であり、且つ東京証券取引所の会員であるところ、右大家等は同目録売却、委託者欄記載の通り被告会社に対し右株式の売付を委託したので、被告会社は右委託に基きこれを夫々同目録売却の日、代金及び相手方欄記載の通り、東京証券取引所を通じて各証券業者に売付けた。被告会社は右売付履行のため、当時右大家等からこれら白紙委任状附株券及び申込証拠金領収証を善意無過失にて引渡をうけたものであるから、仮りに大家等が右引渡当時右株式の処分権を有しなかつたとするも、被告会社はこれにより右株式をいわゆる善意取得したものである。
(二) 仮りに右株式の内(四)(五)の株式及び(七)乃至(一〇)の株式につき右事実が認められないとするも、被告会社は同年十月二十八日以降右大家及び山口から別に委託をうけていた未発行有価証券売買の証拠金代用の有価証券として、取引に損失が生じた場合、その補填をなすため、被告会社においてこれを売却することができる旨を約して同人等から前記(四)(五)(七)乃至(一〇)(但し山口からは内キララ興業株百株、大家からはその余のもの)の株券の引渡をうけ、これにより担保の趣旨で当該株券の譲渡をうけてこれを善意取得した。
(三) 仮りに右売付履行又は取引上の損失補填のための株券の受領が未だ株式取得の要件を充さないとしても、本件株式を被告会社から買付けた者は、株券等の引渡によつてその株式をいわゆる善意取得したわけであるが、原告等は、昭和二十四年十二月中右株券等に添附した前記白紙委任状及び前記株券裏書欄に押捺してあつた届出済印鑑につき、右株券等発行の各会社に対し夫々改印届をしたので、これらの株式を譲受けた者は、その名義書換をすることができなくなり、右株式はいわゆる事故株になつた。被告会社は、事故訂正の商慣習に従い、売付先からその引取方を要求され、別紙目録買戻欄記載の通りこれを買戻し、これにより右株式を取得したのである。
(四) なお右事実による善意取得が認められないとするも、被告会社は、右買戻により株式買付先所持人に対し事故による損害の金額を賠償したわけであるから、右株式につき当然所持人に代位し、その者が既に善意取得している本件株式に関する権利を承継するに至つた。
このようなわけで、被告は原告に右株券を引渡す義務がなく、却つて右の理由により原告等に対し、右株式につき被告のために名義書換を求める権利がある。然るに右の内別紙目録(四)(五)の申込証拠金領収証については、原告塚本伊三郎が、昭和二十五年二月八日株式会社後楽園スタヂアムから、右領収証と引換えないで、新株券(その番号は右目録(四)(五)記番号欄記載の通り)の発行をうけてこれを取得したので同原告の負う前記名義書換義務はその範囲内で株券記番号に変更を生ずると共に、同原告は右新株券を権限なくして所持するものであるからこれを被告に引渡さなければならないことになつた。原告等は先に述べたように、各会社に対し事故届をして、株式取得者たる被告の請求する名義書換を妨げ、原告塚本伊三郎は、別紙目録記載(一)(二)(三)の株式について第一工業製薬株式会社から昭和二十五年三月三十一日決算による株主に対する年二割の配当金として金五千円を受領し、原告塚本政子は、同(六)の株式につき株式会社白木屋から同年一月三十一日及び七月三十一日決算による年一割五分の配当金として金六百七十五円を受領し、原告塚本華子は、同(二)の株式について東京急行電鉄株式会社から同年五月三十一日決算による年八分の配当金として金四百円を受領し、これにより同人等は不当に同額の利得をしたから、同原告等はこれらの金額を被告に返還する義務がある。
よつて、原告等の本訴請求の棄却を求めると共に、原告等に対し反訴を以て前記各株式の名義書換、則記(四)(五)の株券の引渡及び配当金と同額の金員の支払を求める。
」と陳述した。<立証省略>
三、理 由
原告等主張の株券によつて表彰される株式及び申込証拠金領収証に対応する株式(以下本件株式という。)の名義人が原告等主張の通りであることは当事者間に争がないから、反証のない限り原告等は夫々その主張のような株主であると推定されるところ、被告が現に株式名義人名義の白紙委任状の添附又は白地裏書ある別紙目録記載の株券(但し(四)(五)は備考欄記載の申込証拠金領収証)を所持していることもまた当事者間に争がないから、被告が本件株式につき権利を取得しているか否を検討する。
原告等が昭和二十四年十二月中旬訴外大家万寿男及び山口正一に対し本件株式の処分を委任し、本件株券等に被告主張の通り白紙委任状を添附し、又は、白地裏書をして同人等に交付したことは原告等の自認するところである。而して被告が、有価証券の売買及びその取次を業とする会社であり、且つ東京証券取引所の会員であることは当事者間に争がなく、証人荒川郁夫の証言により成立を認め得る乙第七号証の一乃至八に、同証人、証人柳田収一郎(第一、二回但し第二回の供述中後記信用しない部分を除く)同山口正一の各証言を綜合すれば、前記大家及び山口は別紙目録委託者欄記載の通り被告会社に対し本件株式の売付を委託したので、被告会社は、同目録売却欄記載の通りその売付をなしその頃右売付の履行のため同人等から本件株券等の引渡をうけたことが認められる。もつとも乙第一乃至第六号証第十一号証の一乃至四、証人荒川郁夫同柳田収一郎(第二回)の各証言及び原告塚本伊三郎本人尋問の結果によれば、右大家及び山口は右株式の一部については、被告会社がなした売付の日の前である昭和二十四年十二月十八日頃東京から所在をくらませたこと及びそれにも拘らず大家等は、右逃走前にその代金を受け取つていることが認められる。この事実から推論すると、これら売付日のおくれた株式については、或は原告の反駁するように、被告会社は、大家等からこれらを直接店頭で買入れ、後日市場を通じて処分したのではないかと考えられないわけでもない。しかしこの点につき更に前記山口証人の供述を按ずれば、大家は右株式処分に際し特にその換金を急いでいたところ、通常被告会社に株式の売付を委託した場合には、売付が完了してその代金を入手するまでに数日を要する例であつたので、同人は被告会社の早くからの顧客であつてその信用を得ていた前記山口正一に依頼し、本件株式の売付については、同人が被告会社に対し責任をもつことにして、山口の有する右信用を利用し、売付完了前に被告会社から予想される代金の七割程度の金員の前渡をうけたものであることが肯認される。証人柳田収一郎(第二回)の証言中これに反する部分は信用しないし、甲第五号証の二の記載もこの意味に副つて解せられないわけでなくその他これに反する証拠はない。従つて前記諸証拠もまた前の認定に矛盾するものといえないし、その他には右認定を左右するに足る証拠はない。
原告等は、被告会社が右大家等から本件株券を受領したのは、店頭売買によつたものであるから、証券取引法に基く証券取引所の業務規程に違反して無効であるというけれども、この主張は、前記認定と相容れないものであるから採用の余地なく排斥を免れない。
かくて、本件株式は、別表売却欄記載の通り被告によつて東京証券取引所の市場において売却されたのであるが、証人荒川郁夫、同柳田収一郎の証言原告塚本伊三郎の本人尋問の結果、右荒川郁夫証人の証言により成立の真正を認める乙第八号証の一乃至十、成立に争のない同第十六号証の一乃至九の記載を併せ判断すれば、本件株式が予期に反し、早く売却され、しかも処分を依頼した訴外大家万寿男及び同山口正一が東京を逐電したことを知つた原告塚本伊三郎は、昭和二十四年十二月下旬頃各当該会社に対し原告等全員のため、改印届をして株式の名義書換を阻止しようとしたため、本件株式の取得者は、会社から夫々名義書換を拒まれ、被告は、商慣習にしたがつて、売却相手から別表買戻欄記載の通り株券の返還をうけ、且つ、代金の支払をしていわゆる決済をしたことが認められる。しかして成立に争のない乙第十、第二十一号証、第二十、第二十二号証の各一、二に前記荒川郁夫の証言を併せ判断すれば、事故株の処理につき東京の証券業者の間では本件取引前から次のような取扱が慣習となつていることを認めることができる。即ち、
(一) 証券業者が証券取引所の受渡によつて引渡をうけた記名株券につき名義書換その他事故があることを発見したときは、その受領の日から一年を限り、渡方証券業者に対しその事故の除去又は他の株券との引換を請求することができる。
(二) 右の場合、渡方証券業者は、その事故の除去又は他の株券との引換を行うまで、受方証券業者の申出により、買付代金又は時価に相当する金額を当該事故株券と引換に受方証券業者に預託しなければならない。
(三) 渡方証券業者が事故株券の返付をうけたときは、その返付の日から起算し三十日内に当該事故を除去し又は他の株券を引渡さなければならない。
(四) 渡方証券業者が事故株券の返付をうけてから三十日を経過するにかかわらず、事故の除去又は他の株券との引換をしないときは、その月末の取引所の終値により決済することができる。
(五) 右によつて決済した場合、事故株についての権利は、渡方証券業者に帰属する。
というわけである。この場合事故の除去については暫くおき、他の株券との引換又は取引所の取引相場による決済(以下代金決済という。)は、渡方証券業者がその選択により自己の責任を以てすることを強制されるものであるから、法律上は、これを法定の交換又は売買であるとみるのが相当である。したがつて渡方証券業者は、これによつて取得した株主権にもとずいて会社又は株式名義人に対し株式の名義書換を求めることができ、その目的を達することができないときは、売却を委託した顧客に対し、この取引によつて生じた損害の賠償を求めることができるものと解すべきである。
次に原告等は、大家等に前記株式の処分を委せたのは、これを担保として利用するためであり、後にこれを解除したのであつて、被告会社においても右事情を知り得たものであると主張し、原告塚本伊三郎の供述によれば、株式処分委託の事情が原告主張の通りであることが認められる。しかし、原告等から株券が流出した事情が右に認定した通りである以上、反証のない限り、被告会社の相手方となつた者は本件株式を有効に善意取得したものと認めるべく、原告等はこれによりその株式を喪失したものであるから、爾余の点につき判断するまでもなく、被告に対し、その株券等の引渡を求めることのゆるされないこと明かである。
進んで被告(反訴原告)の請求につき按ずるに、さきに認定したように、被告会社は事故訂正の商慣習に従い、別紙目録買戻欄記載の頃、その記載の様な価格で本件株式をうけ戻したことが認められこれに反する証拠はない。従つて被告会社の右株券等の所持は右うけ戻により取得した株主権に基いているものである。被告のなしたこの株式取得は改正商法(昭和二五年法律第一六七号)施行前のことであるから、被告が各当該会社に対し株式の名義書換を求めても、すでに認定したように、原告等から各会社に対し改印届をしている為、新法第二〇五条第三項の規定の適用をうけることなく、会社からその請求を拒絶されることなきを保し難い。かかる場合には、名義人たる原告等は、株式取得者たる被告会社のために、なお、名義書換に協力すべき義務があるといわなければならない。
なお成立に争のない乙第十三号証によれば、原告塚本伊三郎は、株式会社後楽園スタヂアム株式二百株につき、昭和二十五年二月八日同会社から、申込証拠金領収証と引換えることなく別紙目録記載(四)(五)の新株券を受領したことが認められるけれども、同原告にこれを保有する権限がないこと前認定の通りであるから、これを被告会社に引渡すべきものである。
次に原告等が夫々会社に対する関係において株主として被告主張のような配当金を受領したことは当事者間に争がないが、右は、被告会社のためになされる名義書換を妨げたことによつて会社に対し株主名簿上保有する株主名義によつてなされたものであつて、被告会社に対する関係では、原告等がこれを受領する理由のないことは、以上に認定した通りであるから、原告等は法律上の原因なくして利益をうけ、これにより被告に同額の損害を与えたものというべく、何等反対の主張立証のない本件においてはその全額を被告に返還する義務がある。
よつて、原告等の本訴請求は理由がないものとして棄却し、被告の原告等に対する株式名義書換、株券引渡及び配当金返還の各反訴請求はいづれも正当として認容すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八十九条第九十三条の各規定を、仮執行の宣言につき、同法第百九十六条第一項の規定を適用して主文の通り判決する。
(裁判官 小川善吉 岡田辰雄 矢口洪一)